やっぱ、すこし落ちるな。眠くてかなわんよ。
いや、眠いのは眠いが、俺は現在、呑気に寝てる場合じゃーねえのだ。



今、俺の机横のプラスチック製ラック天板に、小皿に入れた塩ひとつまみ&ぐい飲みに入れた水が置いてある。
何年前だったか、結構幅がある川の横走ってて、いきなり首撫でられたみてえな感覚があり、気のせいだなーとウチに帰り、翌日台所でケツ触られて「あにすんだよ嫁w」つったら、嫁いなかった……。
塩と水あげて1週間くらい拝んでた。

——とゆーことが、その後何度もあってだな。

四半世紀前、コミケに出るべく仲間が何人かアパートに泊まったんだが、そのうちの2人がそのテの話始めて。
「なんか、このへんって"感じる"よね」
「うん、なんか窓の外にいる」
「ひとりじゃないよね、何人もいる」
俺はナナメに聞き流し。右から左へと華麗にスルー。
もしも霊魂が実在すると仮定した場合、そりゃあ窓の外にもいるだろうよ、人類が地上に発生してからどんだけの数がどこで死んできた?
エベレストにだって死体はゴロゴロあるんだぞ。マッキンリーには植村直己が埋まってる。
そもそも東京なんか第二次世界大戦で山ほど人死に出てんぞ。広島長崎はどーする。
むしろ1人2人じゃねえわ。どこもかしこも霊だよ、立錐の余地ねえよ。
ケモノにも魂あったらどーすんだよ。地球は霊魂まみれの星か?
『っとに、こいつら、頭イカレてるよな。常人と違う自分になりきって酔ってんだな』
と思いながら酒飲んでた。

——そんなおぢさんが、中年過ぎて奇妙な『体験』重ねてまつ……。
『感じる』とかじゃーなく『体験』だから困る。
俺は霊魂の存在を否定するもんではねえ。だからって認めてもいねえんだが。
何で否定しねえかってーと、存在しねえと立証出来る科学的データがねえからだ。『科学的』てのは、推測や意図が入らん論理的証明が成立し、かつ、実証・再現性が認められるか否かってこと。
これは厄介な命題だぞ。
これがもし証明されたら、大喜びで存在を否定する。
否定出来る材料がねえから否定してねえだけで、心じゃ思い切りdisってる。

で、本日未明。湯船に浸かってた。
斜め隣の流しで、なんか刻んでる音がする。
ああ、嫁がアテの準備始めたんだな、すっかり遅くなっちまったもんな——なんて思いつつ、湯船を出た。
俺んとこは、嫁とふたりで1枚のバスタオルを使う。
冬場は書斎のファンヒーターの前にぶら下げといて、乾燥&あっため。
俺はやや流しの方に向かって
「すまんー、バスタオルくれ〜」
つって、嫁が流しから書斎に行ってタオル持って来ると思ってた。
……風呂場の横を歩く音がしません。……気のせいかな。
書斎側から音がして、嫁がタオル持って来た。
「……アテの準備始めてたん?」
「? ううん、書斎にいたよ?」
「……まな板トントン、何か切ってただろ」
「ううん、まだやってない」

思い出した。
きのう大学病院で迷って…………

『霊安室』の横通っ…… (((((( ;゚Д゚)))))ガクブル


もしもと仮定して、完全否定出来ねえ以上そーゆうこともないとは断言出来ねえとゆー前提で想像するならば。
きっと俺におぶさってきたのは、主婦だ。若いかどーかは知らん。未明、つか早朝だったから、朝飯の仕度しながら旦那か子供らに弁当でも作ってたんだ。
「もう、早起きもラクじゃないのにね」とか呟きながら、きっと味噌汁に入れる具材でも刻んでたんだろう——とか。

ここまで明確な『目的』を持ち『アクション』を起こしたアグレッシブな居候は今までいなかったぞ。
こーゆうタイプって、きっと自分が死んだの知らねえんだろう。
塩と水だけでは足りんかと思い、ペティナイフを添えてやった。
前回研いでからほとんど使ってねえから、切れ味良いぞ、菊一文字。
薄っぺらいまな板ボードもあったんで、その上にペティナイフと水と塩。
調味料は勘弁しろ。



何でこんなことになってんのかねぇ……自分でも全然判らん。
マジ困惑。
『基本、信じてねえもん』が、そこにたしかにいる——って、そりゃ戸惑うだろ普通。
しかも身内じゃねえぞ。じーさまばーさま、トーチャンカーチャンとかじゃねえ、まったくの、完璧な赤の他人だぞ。
あの川、ぜってー半端ねえぞ。むかし川岸にあったビル内の店に嫁がいた頃、誰も通ってねえのにドアチャイムが鳴ったり、ランチタイムに「お水下さい」て言われてサーバー持ってったら誰もいねえとか、日常茶飯事だったってーから。

まさか玄関に塩置いといて、帰宅するたびに肩に振るってのもなあ……玄関先の土の塩分濃度が上がって、ペンペン草も生えなくなるじゃん。

学生時代、交差点の信号待ちで『人数分の脚の他に赤いハイヒールを履いた脚を1本見た』嫁が言うには
「1週間くらい供養してあげると、自然に離れてくよ〜」
だそうだが。
だからって、安易についてきてほしくねえ。

つーかっ、死んだ自覚なかったら、どーやって離れてくんだよ!?



いいか、俺は肯定してねえの!否定出来ねえってだけなの!!
ついてくんなら信じてる奴んとこに行けっ、その方が待遇良いから!

——なんかね……なんかもうね……自分が信じてねえもんに『間違いなくたしかに』くっついて来られてるってのはね……なんか自我が崩壊しそぉになるから、やめて……。



早く帰ってね…
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