俺は一体、何kg太って病院に戻るんだろうか。
『自己管理出来なかった』禮人さんである。信頼度下がるなこりゃ。
そりゃあ、シャバには旨いもんが山積みだ。いくら俺だって自己管理なんて言葉は存在自体忘れるわ。
入院中に酒とゆー存在を忘れ去ってるのとおんなじだ。
チーズ三昧だしな。
嫁のチーズケーキ。クリームチーズがガッツリ。
チーズ王国、ゴルゴンゾーラとマスカルポーネが層になってるのと、タレッジョ。
マスカルポーネは日持ちせんので早々に食らい尽した。タレッジョ食ってねえ。ピンチ。
つーかさあ、乳脂肪バリバリなんだけど。やっぱ俺ピンチ。
嫁がゆうべ
「あと1泊だね……」
と呟いた。
すこし後悔してる。チョーシこいて4泊したが、中途半端に伸ばしたから、その後の寂寥感が深くなりすぎるかもだ。
GW連泊したんで、嫁の誕生日には外泊困難。つか無理。
最悪だな、ぼっち誕生日とか。
多分、泣くだろうな……と思うと、こっちが泣きそうだ。
さっきも「これでまたしばらく、仕事終わった電話出来なくなるな……」と、しおれた様子で言われた。
もうね、さっさと退院試験始めてえわ。さっさと。マジで。
判ってる、焦ったらロクな結果にならねえと。
だが、ベストなんか望んだらバカだろ。今必要なのは、ベターなんだ。
大岡裁き。三方一両損、ってやつだ。知らん奴はググれ。興味があれば。
3人で1歩ずつ譲る。これは厳格なルールとして定める。それが3人とも納得・実行可能なものなら締結。ひとりでも譲歩拒否したら交渉ふりだし。
まあ誰が駄々るかは想像つくが、ならこの先も施設から出られません。何しろ『あなたの処遇』が決まらないと、俺は病院出られませんから。
あなたが最初に譲らなきゃ、事態は膠着して1歩も前に進めねえのだ。自覚は皆無だろうが。
ここはもう、ケアマネージャーの能力が問われるところだな。
ケアマネージャーから上がったプランが、ソーシャルワーカーと担当医から主治医に上がる。そこで大まかな方向性を提案、担当医経由でソーシャルワーカー、ケアマネージャー、俺（担当看護師が入ることもある）で協議。
なかなか手間がかかる。厄介なケースだからなあ。
超大事なクリアファイルが見つからず、俺は大焦りまくりでパニック寸前——つか、いやもうほんとマジで冷や汗もんなんだわ。
紛失したのは、出版社との契約書。実印捺した契約書。
誰だって顔面蒼白もんの紛失物。俺なんか3割増だ。
何でって、あそこには改名申立に問答無用の証拠提出物が挟んである。
俺がそのPN……改名してえ名前が1997年から使用されてる証明になる書面が入ってんだ。
や、契約書でも十分以上に決定的な使用歴になるから、他の証拠なんか添えもんだがな。
最近は緩くなってて3年程度の使用歴でも認められるケースもあるんだが、失敗すると次の申立まで時間を置かなきゃならん。
人間、一寸先は闇だ。階段で足を滑らせて死ぬかもしれんのだぞ、中島らものように。
俺はクソ腹の立つ名前のまま葬られるんだぞ。それが戸籍として死後も80年間保存されるんだぞ。死んでまで不愉快なままだ、80年。
だから申立は1度で済ませてえ。一撃必殺。
ほんっとマジで、この名前は断固許せんくてなあ。ストレス甚大でな。ガキの頃から歳を重ねるごとにストレス増大、そろそろ限界ってとこで今回の一件が起きたもんだから、もう躊躇する気も失せた。木っ端微塵。
俺の本名なあ、孝子って言うんだぜ。
生まれた瞬間から親の願望を背負わされた名前。
踏みつけて砕いて300m地下に放射性廃棄物と一緒に埋めてえとマジ思ってる。
電話で名前の字を説明すんのに「親不孝の孝です」と説明する。孝行はこうが重なってるから説明がメンドーだし、不孝なら一発で通じる。
だから電話で漢字訊かれるのは好きだ。すこしだけストレスが発散できる。
ちなみに妹の名は順子だ。
順には『さからわない。他の物の力にしたがう。すなおである。おとなしい』という意味があるのだ。従順とかな。
俺たちの名前、揃って親のエゴwww
誰も俺たちのしあわせなんか願ってねえ、自分らの都合っきゃ眼中にねえというね。
俺は自分の名前を、俺のための名前に変えたい。
親の都合なんか知らん、俺のための名前に。
妹が二人目を妊娠した時に、言ったんだ。
「たいせーを絶対にお兄ちゃんと呼ばせるな、呼ぶな。それはたいせーの名前じゃなく、役職名だ。たいせーにはたいせーっていう立派な名前と人格がある」
それが聞き入れられたんか否かは知らんが、兄と妹は幼少時から互いを名前で呼び合ってる。
親からもらった、子供のしあわせを願う良き名を。
残りもさほど長くはあるまい人生、心の断捨離が必要だ。
名義変更が凄まじく面倒臭いんだがな。役所だの銀行だの公共料金だのプロバイダだの、あれやこれやで病院の診察券も。カルテの名義変更しなきゃならんだろ。あれは5年間以上保存しとかなきゃならんデータなんだ。医師法で決まってる。
だー、出版社もじゃねえか。契約書書き直しだわ。
それでも、これは『俺』が『俺』になるための手続き。面倒臭がってる場合じゃねえし。
さいわい、家裁が病院と近いんだよな。市役所目の前だし。
だから書類探してんの。激マジで！
あああぁもうどこに雲隠れしやがったんだ、契約書！！
病院からアンケートを渡されてる。
眠れたかとか、薬どうしてたとか。
やる気が出た、充実してた、気分が沈んだ、何もかも嫌になった、etc.
当てはまるものに丸をつけて、さらに思ったこと、感じたことを書くスペースがある。
『このままでは同居人まで参ってしまう。問題を早く解決して退院に向けての取り組みをしたい』
そう書いた。
もう、形振り構っていられねーよ。潰れてからじゃ遅いんだ、手遅れなんだぜ。
かつて、ド修羅場を乗り切った。今回だって乗り切ってやる。
俺には金も地位も権力もねえが、ここぞって時に肚を据えるくらいのことは出来る。
今がその時だと判断した。
あす、看護師に話してみる。
つーか。
かけてたカギを開けるの忘れてて、帰宅した嫁がドアが開かずに泣きました。
サイテーです俺。最後の晩にやらかしてしもた。凹。
誰か、力一杯殴れ、俺を……！！
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『自己管理出来なかった』禮人さんである。信頼度下がるなこりゃ。
そりゃあ、シャバには旨いもんが山積みだ。いくら俺だって自己管理なんて言葉は存在自体忘れるわ。
入院中に酒とゆー存在を忘れ去ってるのとおんなじだ。
チーズ三昧だしな。
嫁のチーズケーキ。クリームチーズがガッツリ。
チーズ王国、ゴルゴンゾーラとマスカルポーネが層になってるのと、タレッジョ。
マスカルポーネは日持ちせんので早々に食らい尽した。タレッジョ食ってねえ。ピンチ。
つーかさあ、乳脂肪バリバリなんだけど。やっぱ俺ピンチ。
嫁がゆうべ
「あと1泊だね……」
と呟いた。
すこし後悔してる。チョーシこいて4泊したが、中途半端に伸ばしたから、その後の寂寥感が深くなりすぎるかもだ。
GW連泊したんで、嫁の誕生日には外泊困難。つか無理。
最悪だな、ぼっち誕生日とか。
多分、泣くだろうな……と思うと、こっちが泣きそうだ。
さっきも「これでまたしばらく、仕事終わった電話出来なくなるな……」と、しおれた様子で言われた。
もうね、さっさと退院試験始めてえわ。さっさと。マジで。
判ってる、焦ったらロクな結果にならねえと。
だが、ベストなんか望んだらバカだろ。今必要なのは、ベターなんだ。
大岡裁き。三方一両損、ってやつだ。知らん奴はググれ。興味があれば。
3人で1歩ずつ譲る。これは厳格なルールとして定める。それが3人とも納得・実行可能なものなら締結。ひとりでも譲歩拒否したら交渉ふりだし。
まあ誰が駄々るかは想像つくが、ならこの先も施設から出られません。何しろ『あなたの処遇』が決まらないと、俺は病院出られませんから。
あなたが最初に譲らなきゃ、事態は膠着して1歩も前に進めねえのだ。自覚は皆無だろうが。
ここはもう、ケアマネージャーの能力が問われるところだな。
ケアマネージャーから上がったプランが、ソーシャルワーカーと担当医から主治医に上がる。そこで大まかな方向性を提案、担当医経由でソーシャルワーカー、ケアマネージャー、俺（担当看護師が入ることもある）で協議。
なかなか手間がかかる。厄介なケースだからなあ。
超大事なクリアファイルが見つからず、俺は大焦りまくりでパニック寸前——つか、いやもうほんとマジで冷や汗もんなんだわ。
紛失したのは、出版社との契約書。実印捺した契約書。
誰だって顔面蒼白もんの紛失物。俺なんか3割増だ。
何でって、あそこには改名申立に問答無用の証拠提出物が挟んである。
俺がそのPN……改名してえ名前が1997年から使用されてる証明になる書面が入ってんだ。
や、契約書でも十分以上に決定的な使用歴になるから、他の証拠なんか添えもんだがな。
最近は緩くなってて3年程度の使用歴でも認められるケースもあるんだが、失敗すると次の申立まで時間を置かなきゃならん。
人間、一寸先は闇だ。階段で足を滑らせて死ぬかもしれんのだぞ、中島らものように。
俺はクソ腹の立つ名前のまま葬られるんだぞ。それが戸籍として死後も80年間保存されるんだぞ。死んでまで不愉快なままだ、80年。
だから申立は1度で済ませてえ。一撃必殺。
ほんっとマジで、この名前は断固許せんくてなあ。ストレス甚大でな。ガキの頃から歳を重ねるごとにストレス増大、そろそろ限界ってとこで今回の一件が起きたもんだから、もう躊躇する気も失せた。木っ端微塵。
俺の本名なあ、孝子って言うんだぜ。
生まれた瞬間から親の願望を背負わされた名前。
踏みつけて砕いて300m地下に放射性廃棄物と一緒に埋めてえとマジ思ってる。
電話で名前の字を説明すんのに「親不孝の孝です」と説明する。孝行はこうが重なってるから説明がメンドーだし、不孝なら一発で通じる。
だから電話で漢字訊かれるのは好きだ。すこしだけストレスが発散できる。
ちなみに妹の名は順子だ。
順には『さからわない。他の物の力にしたがう。すなおである。おとなしい』という意味があるのだ。従順とかな。
俺たちの名前、揃って親のエゴwww
誰も俺たちのしあわせなんか願ってねえ、自分らの都合っきゃ眼中にねえというね。
俺は自分の名前を、俺のための名前に変えたい。
親の都合なんか知らん、俺のための名前に。
妹が二人目を妊娠した時に、言ったんだ。
「たいせーを絶対にお兄ちゃんと呼ばせるな、呼ぶな。それはたいせーの名前じゃなく、役職名だ。たいせーにはたいせーっていう立派な名前と人格がある」
それが聞き入れられたんか否かは知らんが、兄と妹は幼少時から互いを名前で呼び合ってる。
親からもらった、子供のしあわせを願う良き名を。
残りもさほど長くはあるまい人生、心の断捨離が必要だ。
名義変更が凄まじく面倒臭いんだがな。役所だの銀行だの公共料金だのプロバイダだの、あれやこれやで病院の診察券も。カルテの名義変更しなきゃならんだろ。あれは5年間以上保存しとかなきゃならんデータなんだ。医師法で決まってる。
だー、出版社もじゃねえか。契約書書き直しだわ。
それでも、これは『俺』が『俺』になるための手続き。面倒臭がってる場合じゃねえし。
さいわい、家裁が病院と近いんだよな。市役所目の前だし。
だから書類探してんの。激マジで！
あああぁもうどこに雲隠れしやがったんだ、契約書！！
病院からアンケートを渡されてる。
眠れたかとか、薬どうしてたとか。
やる気が出た、充実してた、気分が沈んだ、何もかも嫌になった、etc.
当てはまるものに丸をつけて、さらに思ったこと、感じたことを書くスペースがある。
『このままでは同居人まで参ってしまう。問題を早く解決して退院に向けての取り組みをしたい』
そう書いた。
もう、形振り構っていられねーよ。潰れてからじゃ遅いんだ、手遅れなんだぜ。
かつて、ド修羅場を乗り切った。今回だって乗り切ってやる。
俺には金も地位も権力もねえが、ここぞって時に肚を据えるくらいのことは出来る。
今がその時だと判断した。
あす、看護師に話してみる。
つーか。
かけてたカギを開けるの忘れてて、帰宅した嫁がドアが開かずに泣きました。
サイテーです俺。最後の晩にやらかしてしもた。凹。
誰か、力一杯殴れ、俺を……！！
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